ステファン・ランビエールインタビュー:宇野昌磨、デニス・ヴァシリエフス、島田高志郎、FaOIプログラムについて - Golden Skate [日本語訳]

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—— Golden Skateのジュディスです。今ステファン・ランビエールさんと彼のスイススケートスクールにいます。ステファン、お時間をいただきありがとうございます。とても成功した昨シーズンでしたね。今は生徒の次シーズンのために準備していると思います。オリンピックシーズンでもあった昨シーズンを振り返って、どの場面が印象に残りましたか?

 

ここシャンペリーで、コーチとして素晴らしい8年を過ごしてきました。勿論昨シーズンはたくさんの成功がありました。ただ、私にとって、どんなレベルの生徒のどんな瞬間も素晴らしい思い出です。ここで働き、試合に行き、素晴らしいパフォーマンスや素晴らしい結果で成功することは美しいことです。生徒のためにより多くの教材を与えることは楽しみです。私の最終目標として彼らに願うことは、彼らがいつの日か主体的になることです。

 

—— 生徒のうち国際的に活躍するスケーター、デニス・ヴァシリエフス選手、宇野昌磨選手、島田高志郎選手の3人についてお話しさせてください。宇野選手から始めましょう。2019年秋にステファンがコーチについてからの宇野選手の成長についてどのように考えていますか?

 

昌磨はより自主的になり、彼自身の個性をより発揮できるようになってきていると思います。何が好きか、何を求めているか、何が必要かを自分で理解しています。自分自身についてよく考えていて、それは技術だけでなく演技の助けになっています。一緒に過ごした2年で、彼は自身の考えを深めてきました…3年間だったかな?

 

—— 3年間ですね。

 

3年ですね、数字は苦手なんです、時間もです()パンデミックで時間の感覚がよくわからなくなってしまいました。とにかく、彼は個性を深めてきたと思います。

 

—— 宇野選手が世界チャンピオンになった夜、ステファンが世界チャンピオンのコーチになった夜のことをステファンの目線からお話ししていただけますか?

 

フリープログラムの間、とても自由に満ちた彼の顔を見ていたことを覚えています。見ていてとても楽しかったです。彼はとても感情的なスケーターで、彼の動きやボディーランゲージはとても明白です。彼は喋らなくとも話すことができるから、私たちはお互いによく理解し合えるのかもしれないです。彼がスケートをしているのを見ているとき、彼のプログラムやパフォーマンスに現れる幸福感や自由、喜びを感じることができます。私にとってはそのフリープログラムの4分間が世界選手権のハイライト場面です。

 

—— 世界選手権の記者会見で、「宇野選手はさらにステップアップしていく」と話していましたね。具体的にはどのように彼がこれからもステップアップできると考えていますか?

 

人生において、私たちがステップアップしたり進歩する機会はとても多くあると思います。彼の目の前には多くの機会があります。障害にひとつひとつ立ち向かうことこそが進歩したりより上手くなったり成長したりするための方法です。彼には進み続け、夢を見続けてくれることを願います。シーズンが終わると、また次のシーズンがやってきて、また向かうべき新しいことができます。彼は今まさにその瞬間にいます。

 

—— なぜ、またどのように彼の新しい2つのプログラムを選んだのでしょうか?どちらもステファンが曲を選び、ショートプログラムについては振付もしたと伺っています。ジョン・メイヤーの「Gravity」と、バッハの「G線上のアリア」をどのように選んだのですか?

 

4月にショートプログラムについて考えていたとき、候補は2曲ありました。サロメと私でその2曲を聴いていて、どちらにも気持ちが行ったり来たりして迷っていました。サロメと「Gravity」はおそらく良い選択だと納得して、朝に音楽をかけ、昌磨とその曲に取り組み始めると、その練習後にはもう私もサロメもこれが正しい選択だ、これだ、と感じていました。昌磨はとても自然体で、彼にやって見せてみせると昌磨は心地よく滑っていました。いつも生徒には何か違和感があるときは何かが間違っているときだと伝えています。必ずしも違和感なく、ではなくても良いですが、正しいと感じるものをみるのはとても好きです。彼はまさに彼自身でいる感じがしました。まさに彼のスタイルでした。フリープログラムについては、かなり前から「G線上のアリア」はアイデアとしてありました。後半パートをどのようにバッハの音楽とマッチさせるか考えていました。歌手のJakub Orlinskiのとても力強い声と高音をとても気に入りましたし、昌磨のスケートにも合うと思いました。

 

—— 宇野選手について最後の質問です。フレンズオンアイスで一緒に演技する予定ですよね。どんなものが見られますか?

 

そうですね、同じショーに出演します。ちょうど今、主催者と何をやるか相談しているところです。同じショーには(宮原)知子や(荒川)静香、もちろん昌磨もですが(高橋)大輔も出演していて、彼ら皆と滑りたいので、昌磨と滑るかどうかはわかりません。サプライズになるので、一体どうなるのか楽しみにしています。

 

—— 私たちも本当に楽しみにしています。続いてデニスについて話していきましょう。彼も昨年は彼のキャリアの中でベストなシーズンでしたよね。2016年から彼を指導していて、これは大雑把な質問ですが、彼の成長についてどのように考えますか?本当に成長しましたよね。

 

彼はこの6年間で多くのことを習得し、大人になったと思います。もちろん彼は22歳でまだまだ若いですが、その年齢では大人でありながらまだこれから進む道について考えてもいます。

 

—— 自分自身を探しているといった感じでしょうか。

 

まさにそうですね。彼はとても成熟してきたと感じています。強い心や野心、決断力を持っています。物事をどのように進めるかよく理解し、几帳面にこなしていく姿がとても好きです。もちろん時々完璧ではないときもあるので、これから進む道を探っていくために、まだ私が彼のそばにいて、道明かりを照らして進む方向を示し、サポートし導いていく必要はあります。でも彼の原動力や推進力はしっかり彼の進む道の上にあり、勢いよく進んでいます。私はただその彼自身の進みに合わせて彼を導くだけです。

 

—— ヨーロッパ選手権の後はとても感動的でしたね。チーム全体にも良い影響をもたらしたのではないでしょうか。「彼は以前から内にしっかり能力を秘めていた」と話していましたが、ステファン、デニス、皆にとって素晴らしい成功の瞬間について、何が成功への鍵だったと思いますか?

 

どうやって説明したらいいかわかりませんが、1日目から彼のことを信じていました。彼は、とても努力家で、多分私が指導する前から、とても努力していました。私はただその努力を信じていただけです。彼自身を信じ、彼の努力を信じました。自身の道を進んでいくためには、努力だけではなく、機会も必要です。機会を得るためには視野を広く持つことも必要です。計画や目標を設定することで、目標のために努力することができます。もし視野が狭いと、多くの機会を逃すことになります。彼がタリンで過ごした1週間で気に入っているのは、彼がしっかり準備できていて、強い気持ちでいながらも、視野を広く持ち、目標を達成しなければならないといったような緊張を感じずにいたことです。ただスケートをして、力を発揮するためにそこにいました。だからタリンでは調子の良い彼の練習を見ながら、11日を本当に楽しむことができました。要するに、道を進んでいく中で、そこには機会があります。感覚をオープンに感じることができ、遠慮せず、計画にこだわりすぎずその場の機会を掴んで進んでいる時、物事はうまく行きます。よく準備できていていてそのようなことが起こらないこともあるし、準備できていない時はそのようなことが起こることもあるので、説明するのは難しいです。でもとにかく、掴むことですね。

 

—— 多分、気持ちを解放して、結果にこだわりすぎないということですよね。

 

その通りです。とても美しいことです。丸々1週間、彼の練習を見ていましたが、他の選手から影響されることもなく、何からも乱されることなく過ごしていました。彼はただそこにいて、落ち着いていました。

 

—— 少し島田選手についてお話ししましょう。5年間指導してきて、彼もまたステファンにとって特別な選手だと思いますが、日本男子シングルという少し難しい立ち位置にいますよね。彼はどのように指導していて、彼の将来についてどのように考えていますか?

 

彼もまた初めて指導した時からとても成長してきました。彼を初めて指導したのは彼がまだノービスだった野辺山です。数年後にIce Legendsに出演し、また数年後、まだジュニアの頃に彼のショートプログラムを振り付けました。そこから生徒として教えるようになりました。小さい子供だったのを覚えています。今ではすっかり成長して大人の男性になりました。常に一緒にやってきたのでいつの間にこんなに変わったのか気づきませんでした。でも5年前の高志郎をよく覚えていて、今となっては、どうやって小さかった男の子がこんなにハンサムで、優しくて、決断力があって、とても賢くて男性になっていたの?と思います。

 

—— とても暖かい心の持ち主ですよね。

 

本当に心優しいです。努力家でもあり、礼儀正しいです。さらに彼が自由でいるのを見るのがとても好きです。どうやって言えば良いのかわからないけれど、おそらく日本男子の競争はとても激しくて、日本チーム内のプレッシャーとても高くて強いです。彼が練習しているときは、彼はその競争やプレッシャーを考えすぎることなく、彼自身の進む道を切り開いていこうとし、自分自身のためにやっているように感じていました。もちろん最終的な目標は1番になること、ベストな自分になることですが、彼が自分を見つけたこと、彼自身の力を見つけたことは彼を特別にしていると思います。

 

—— 島田選手はソーシャルメディアで彼はFantasiy on Iceでのステファンの演技に非常にインスパイアされたと話していましたね。彼は昨日、パフォーマンスを見てステファンがコーチであることをとても誇りに思ったと私に話してくれました。ステファンは彼にとってだけでなく多くに人にとってのインスピレーションですが、それについてどのように思いますか?

 

彼がショーを見にきた時、うまく滑ろうという励みになりました。もちろんとても多くの観客がいて、そこにいる一人ひとりのために滑っていますが、彼がそこにいるとわかっていて、彼のために滑るというのは特別なことで、とても嬉しかったです。準備する時間がたくさんあったわけではありませんでしたが、上手に滑りたいと思っていました。彼がショーを楽しんでくれて、インスピレーションを受けてくれて嬉しいです。生徒たちが練習しているのを見るのはとても好きですし、私自身もそこからインスピレーションを受けています。また若くなりたいものです() もちろん私は彼らのコーチで、彼らを導き、先に進むための指導をしていかないといけませんが、それだけでなく彼らをサポートし、彼らが何を必要としているのかについて耳を傾けることで、彼らが何か助けやサポートを必要としているときに即座に反応できるようにしたいと思っています。

—— ここからはFantasy on Iceで披露した2つのプログラムについて聞かせてください。どちらも、特にThis Bitter Earthはとても悲しく感情的なプログラムでした。どのようにプログラムを選んだのでしょうか?

 

今ここで合宿をしている生活からはとても遠いことのように感じます。時間も、雰囲気も違います。...(言葉に詰まる)…あまりにも今の生活からかけ離れているので…() コーチをするのと演技をするのは全くかけ離れているんです。コーチをしているときは、自分が今ここにいるということも忘れてしまいます。理解するのは難しいですよね。全く異なる2つの脳を使っているような感じです。演技をする時は、自分がコーチであるということを忘れているような感じです。

 

—— パフォーマーに徹していますね。

 

そうなんです、2つの違う世界といった感じです。日本で演技をしていた時は、コロナのパンデミックの中での貴重な機会をとても楽しみました。何かがうまくいくように計画したり想像したりするのはとても難しかったので、考えてもいなかったし、期待もしていませんでした。世界中で起こっていることは全部ただ忘れているようにしていたら、突然また演技ができることになりました。とても素晴らしい経験で、このような機会をまた持ててとても嬉しかったです。その機会を全力で生かしました。まずLostと、それからThis Bitter Earthについて話します。2つのプログラムはどちらかというと悲しい雰囲気です。この少し馬鹿げていて狂ったような世界とのつながりに疲れているけれども、とはいえ希望を持って前を向いて進み続けていかなければならない。悪いこともまだ起こります。このプログラムには継続という大きなメッセージを込めています。自然というのは何よりも大きいもので、美しく、私たちはその美しさに囲まれています。でも時々自然は人生や何か大切なものを奪ったりもします。それでも人生は続いていく、そのことを受け入れる必要があります。この曲が流れ始めるたびに、とてもこの曲との繋がりを感じています。曲にインスパイアされ、今自分が存在して演技することに幸せを感じます。

 

—— This Bitter Earthでは、わざと転倒する場面がありますよね。一体どうやってそれをコントロールしているのかと不思議に思いました。とても衝撃的で痛そうに見えました。

 

いくつか独創的なパートがありますね。転倒もそのうちのひとつですが、私たちの世界には重力があって、その重力で私たちは落ちていきますが、私たちは「落ちていく」ことを時々恐れるので、その重力、落ちていくに対して抵抗しようとすることもあります。でも、時々私たちは一度落ちて、また立ち上がることも必要です。これこそがこの転倒して崩れ落ちていく表現です。崩れ落ちた後、また立て直していきます。これは希望の感覚でもあります。壊れてしまい、立ち上がるのも、前に進んでいくのも、信じ続けるのも大変なことですが、それでも小さな希望がだんだん膨らんでいって、自分の人生が戻ってきます。他にもこのプログラムで特別なポイントとして、即興というところも気に入っています。これまでに一生懸命練習することを学んできたので、即興は居心地が悪い感じがしました。特に完璧主義であれば、それぞれのポイントを予定通りにこなそうとします。このプログラムを振り付けてくれたフーディアが、何か挑戦をしてほしいということで、即興を取り入れることになりました。氷の上に乗り、何をやるべきか明確にわからないというのは自分にとってはとても居心地が悪い感じがしました。だからこのプログラムについてはとても不安でしたが、それと同時にチャレンジすることも好きなので、挑戦に向かっていきたいと思いました。即興についてもっと自信を持てるように、フーディアはいくつかテクニックや練習用エクササイズを教えてくれました。何かひとつのこと、方向性を思い浮かべて、その方向性を信じて自分の体で十分の表現できるように練習をしました。基本的にプログラムの中にいくつか即興パートがあり、その3つのパートはそれぞれ繋がっています。カーテンの裏に立つとき、何について思い浮かべるか、どのような動きにするか、自分の考えをいまだに自問していることもありました。空っぽな状態から、何かを思いついていました。とても美しい経験でした。

 

—— 今やっとなぜプログラムが毎回変わっていたのか合点がいきました。

 

そうなんです、だから毎回違う思いつきで違うプログラムになっていました。このチャレンジをとても楽しむことができました。

 

—— ステファンは素晴らしいアーティストであるだけでなく、もちろんアスリートでもあります。今だに4回転ジャンプを跳べるということを証明してくれましたね。どのように練習し、どのように成功させているのでしょうか?

 

教えることが練習になっていますね。教えるときは、動きを少しスローダウンさせるような形で考えて、動きの中のそれぞれのステップがどのようになっているのか理解しようとしています。全てのスケーター、生徒がやっていることを観察して、それぞれのスケーターにあったポイントにフォーカスして、少しずつ動きを組み合わせていきます。あるスケーターは回転できていなかったり、あるスケーターはしっかり押せていなかったり、といった感じです。それぞれ修正していく必要があります。それで本当に多くの実例を見ることになるので、とても役立ちます。それでまとめあげていくわけですが、もちろん身体的にも可能でないといけないので、身体は維持するようにしているし、関節も異常なく保ち、筋肉もしっかり使うようにしています。それでもやはり頭で考えるというのはコーチをしていて大きな部分です。

 

—— とても感銘を受けました。残念ながらそろそろ時間になってしまいました。本当に本当にありがとうございました。

 

ありがとうございました。